1. 始まりと変革-有限会社東海樹脂加工のルーツと事業転換の軌跡
有限会社東海樹脂加工は、1990年の創業時から長年にわたり日本のものづくりを根底から支えてきた企業です。創業当初は、主に半導体関連の部品や機械治具製造を手掛けており、その事業の核はBtoB(企業間取引)にありました。
当時の主力製品として、家庭用ゲーム機の基盤を収めるための部品製造や、これに加えて、液晶テレビの基盤部品も手掛けるなど、多岐にわたる電子機器の部品供給の一翼を担い、日本のエレクトロニクス産業の発展に貢献してきました。
しかし、2020年以降の世界的なパンデミック、新型コロナウイルス感染症の拡大は、同社にも大きな影響を及ぼしました。
従来のBtoB事業が約8割も減少するという未曽有の危機に直面し、さらに長年の取引先の廃業や高齢化、後継者不足といった複合的な課題が追い打ちをかけました。
この厳しい状況下で、2代目代表取締役社長の梅本 祐希氏は事業の転換を決断します。
従来の受託生産から、自社製品の開発・製造に重心を移し、新たにBtoC(企業対消費者取引)市場への参入をゼロからスタートする道を選んだのです。
この大胆な事業転換は、同社の歴史において大きな節目となり、新たな挑戦の幕開けとなりました。
2. ROSSUE誕生秘話-一つの困りごとから生まれた革新的な商品
BtoC事業へと舵を切るきっかけとなったのは、代表取締役社長である梅本 祐希氏自身の「困りごと」からでした。
梅本氏のお子様が、トイレトレーニングの際、お尻を拭く前にトイレから出ていこうとすることが多々あり、梅本氏は子どもを片手で抱えながら、もう片方の手でトイレットペーパーを切ろうとしても、なかなかうまく切れないという切実な課題に直面していました。ここから片手で簡単にトイレットペーパーを切れる製品があれば、という想いが「非接触型製品」の開発へと繋がったのです。この親心から生まれたアイデアが、後にクラウドファンディングや各種メディアで注目を集めることになる画期的な製品「ROSSUE(ロッシュ)」の原点となりました。
ROSSUEは、非接触でトイレットペーパーを清潔かつスムーズに使用できることを目指して開発されました。
製品開発は主に梅本氏と、物作りをメインで担当する取締役会長(梅本氏の父・梅本 和彦氏)の2人体制で行われています。開発プロセスにおいては、顧客からのフィードバックを積極的に取り入れ、製品の改良に活かしています。
特に興味深いのは、既存の非接触型製品トイレットペーパーホルダーカタテコのユーザーから寄せられた「トイレットペーパーをティッシュのように使いたい」「トイレ以外でもトイレットペーパーを使っているが、むき出しなのがちょっと…」という声や要望が、新たな製品開発のきっかけとなった点です。これは、単なる機能性だけでなく、衛生面やデザイン性といったユーザーの潜在的なニーズに応えようとする同社の姿勢を示しています。
顧客の声に真摯に耳を傾け、それを形にすることで、ROSSUEは単なる便利グッズを超え、ユーザーの日常生活に寄り添う製品へと進化を遂げています。
※ROSSUEの改良版である「ROSSUE mini」の詳細については、わくたんのプロジェクトページで確認できます。
3. 開発の舞台裏-困難を乗り越えるモノづくりの情熱
有限会社東海樹脂加工の商品開発は、その独自のスタイルゆえに多くの苦労を伴います。最も特徴的なのは、梅本氏が「図面を引かずに頭の中のイメージを直接形にする」というアプローチをとっている点です。
この手法は、アイデアから製品化までのスピードを劇的に早める一方で、試作品の数が膨大になります。
わずかな寸法の変更や機能の調整を行うだけでも、何十、何百もの試作品を製作する必要があり、その度に素材の調達や加工に手間と時間がかかります。
さらに、自社で特許出願も行っているため、開発中の製品が原理原則と合致しているか、論理的な整合性が取れているかといった点にも細心の注意を払う必要があります。
技術的な実現可能性と特許要件のクリアという二重のハードルを越えることは、容易なことではありません。
製造面においては、同社の製品は一枚の板から手作業に近い工程を経て製造されるため、大量生産が難しいという課題があります。
市販のプラスチック製品のように短時間で大量に生産することは困難であり、1日に生産できる数も限られています。従来のBtoB事業と並行して製造しているため、月の生産量は約500個が限界だと梅本氏は語ります。
外部への委託(外注)も検討はされていますが、コスト面での課題も大きく、自社での生産体制の維持が現状の選択肢となっています。
このように、有限会社東海樹脂加工は、開発から製造、販売に至るまで、一つ一つの工程において独自の課題と向き合いながら、お客様のニーズに寄り添った製品を生み出し続けています。
4. 未来への貢献-環境に配慮したものづくりとSDGsへの挑戦
単に製品を開発・製造するだけでなく、持続可能な社会への貢献、すなわちSDGs(持続可能な開発目標)への意識を高く持っています。
その取り組みの一つが、余剰材料の有効活用です。通常であれば廃棄されてしまうような材料を、自社製品の製作に利用することで、資源の無駄をなくし、環境負荷の低減に努めています。
これは、製造業における資源循環の一例であり、小さな企業ながらも環境問題に対する責任を果たそうとする姿勢を示しています。
さらに、梅本氏は長期的な展望として「ティッシュペーパーの代わりにトイレットペーパーを使う文化」の創造を掲げ、SDGsへの貢献を強く意識しています。
トイレットペーパーをうまく生活に取り入れられれば、ティッシュを使うよりも節約効果が見込め、家庭やオフィスにおける消費材のコスト削減に繋がります。この文化を広めることは、紙の原料となる森林資源の保護や、ごみ削減といった環境面での大きなメリットをもたらします。
有限会社東海樹脂加工は、自社製品を通して、ユーザーの利便性を向上させるだけでなく、地球環境に優しいライフスタイルの提案をも行おうとしているのです。これは、ビジネス活動を通じて社会課題の解決に貢献するという、現代企業に求められる役割を体現するものです。
5. 次なる一手-新たな事業展開とグローバルな展望
今後の事業展開においても積極的な姿勢を見せています。
非接触型製品の開発で培った技術と知見を活かしつつ、今後は「便利なグッズ開発」という幅広い分野への挑戦や販路開拓にも挑戦していく意向です。
展示会への出展を通じて、新たな顧客接点やビジネスパートナーを見つけることに注力したり、補助金を活用して金型を開発し、より効率的な生産体制の構築や新たな製品開発を進めることで、市場競争力の強化を図ります。
さらに、同社は国内市場に留まらず、海外への展開も視野に入れています。特にアメリカでの販路開拓は、長期的な目標の一つとして挙げられています。
これは、非接触技術やユニークな便利グッズに対する需要が世界的に高まっていることを捉えたものであり、グローバルな視点での事業展開を目指す同社の大きな挑戦となるでしょう。
有限会社東海樹脂加工は、クラウドファンディングを通じて顧客から直接フィードバックを得る仕組みを構築しており、顧客の声をダイレクトに製品開発や事業戦略に反映させています。このような顧客志向の姿勢と、変化を恐れず挑戦し続ける企業文化が、今後の有限会社東海樹脂加工のさらなる発展を支えていくことでしょう。